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2006年4月 2日 (日)

Is there a doctor in the house?!

病院に着くなり彼は、開いている一つの椅子に腰を降ろしたが、どこも二人掛けの席は空いていない。内心ほっとしながら向こうに座ってるからね、と言って行こうとした僕に、彼は叫んだ「Jon---------------------------!!!」

びくっとした僕&周りの皆様。戻ってみると、彼はかぐや姫のように、この例えは似合わないな、睡眠不足の子供のように無理難題を吹っかけてきたのだ。

ここに座れ、と。

もちろん両隣は空いていない。それなのにその椅子を指差し、ここだ、と言うのだ。「ここ?」と聞き返すと、何を質問する事がある?とばかりに頷くではないか。さすがにそれはできないし、仕方なくたったまま彼と話して順番を待つ事に。

周りのおばちゃま達からは、大変ね、あなたもという温かいような居心地の悪いようなまなざしをいただいていた僕。この時点で帰ってしまいたかったのだが、こんな状態でBig Johnを放っておく方が危ない。覚悟を決めて僕は彼の前に立ち相手を始めた。

しばらくくだらない事や支離滅裂な事を言っていたが、不思議とそれが心地よいと感じられるようになってきた。理由は今でも分からないが、きっと彼と僕との間に何か穏やかな風が吹いたのだろう。僕はだいぶリラックスして話を続けた。

そのうちに、何故か突然彼が真顔になり、僕にこんな質問をぶつけてきた。

「Jonよ、お前は大人になったら何になりたい?」

この時僕は22歳で、夢を語れるほど若くはなく、将来がしっかりと見据えられるほど大人でもなかった。元々その何かを探したい気持ちもあってイギリスへ渡った僕である。この時点でも将来の方向など決まってはいなかったし、ましてや夢など・・・。

返事に窮してしまった僕を見かねた彼が言った。

「何かあるだろう、医者だとか弁護士だとか・・・。お前さんには何もないのか?俺は昔レスリングをやっていた。それは強かったんだぞ。チャンピオンにだってなった。でもそれが何故か分かるか?」

僕を覗き込む彼の目は真剣だった。強かったから、自分が好きだったから、色々な理由が浮かんできたが、いつになく真剣なその目の前では何一つとして言葉にする事はできなかった。仕方なく僕は、ゆるゆると首を振った。

「夢があったからだよ、夢が。俺は強いチャンピオンになって、絶対に成功してみせるといつだって思ってた。その思いの強さが俺をチャンピオンに押し上げたんだ。」

真剣に話す彼の顔は、とても50を越えた路上の人には見えなかった。

「Jonよ、夢を持て夢を。お前はまだ若い、何でもできる可能性がある。しかもお前には何よりも大切なものがあるんだ。何か分かるか?」

再び首を振る僕。自分の、何よりも大切なもの。自分が何よりも大切にしているものではなくて。

「心だよ。お前は本当に良いやつだ。こればかりは成長するうちに育ててこなければいけないものなんだが、不幸にして育てているやつは多くない。お前にはそれがあるんだよ。今から欲しがってるやつはいっぱいいても、ここから手に入れるには大変なものをな。」

こころ、か。僕は自分の胸に手を当てた。正直に言ってしまえば、わからない。自分のどの辺りが、そんなに人とは違う何かなんだろうか。ただ、それでも彼が僕に何か大切な事を伝えようとしているのは分かった。彼は更に続ける。

「大切にするんだぞ、心を。どんな時でも、な。」

ありがとう、Big John。僕はそうつぶやいて、彼の肩を叩いた。ちょうどその時名前を呼ばれ、僕らは診察室へと入ったのだが、残ろうとした僕を彼は強引に中へ引っ張っていってしまった。そしてドクターに一言、

「俺は難しい事はいっさい分からん。ここにいるジェントルマンに話してくれ。」

え?えぇ?!ちょっと待ってくれ、僕は日本人でそこまで英語が得意ではないし、ましてや専門用語なんて・・・。無理だって、誰か辞書をここへ!!

そんな僕の心も知らず、僕に症状を説明するドクター。なんとなーく分かった事は、大きな病院で検査をしなければならず、この後紹介状を書くから向かいなさい、との事。時間やその他諸々必要な事を聞き、重要な事は紙に書いてもらって部屋を出た。初めての言葉だらけで話を聞くだけで憑かれてしまった僕を後目に、Big Johnはすっかり上機嫌である。人の気も知らずに・・・。

こうして病院を後にした僕らは、目の前にあった薬局へ向かった。しかしここからシェルターまでは遠くなく、しかもこの後はどうやら急いだ方が良さそうだ。薬を僕がもらって帰るから、先に帰ってこの紙をワーカーさんに渡すように言い含め、僕は一人薬局へと入った。

しばらくの後、出てきた僕は音楽でも聴きながらジョギングでもして帰ろうかと思ったのだが、薬局を出てiPodをポケットから取り出そうとしている僕の耳に、何やらおかしな声が聞こえる。

「Jon〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

そう、彼が僕を待っていたのだ。しかし、こんなところで遠くから大声で呼ばんでも。。。周りにいた人たちがみんなして、僕の事を見ていた。顔から火が出るというのはこういう時に使うものなんだろうな。あー恥ずかしかった・・・。

しかし彼はニコニコしながら、いっこうに気にした様子もなく「僕を待っていたんだ」と嬉しそうに言っていたので、早く帰らなければダメじゃないかなんて無粋な事は言い出せず、色々な話をしながら施設へ戻った。なんというか、とても温かい気持ちになった一日だった。

続く

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